前回のコラムでは、派遣会社のビジネスモデルである「マージン」についてはご紹介をして、少しでも人材派遣業界のビジネスモデルについてご理解いただけたでしょうか。
人材派遣業界の平均マージン率が33.84%といわれているため、仮にある企業が時給1500円で派遣社員を採用するときに、派遣会社に支払う仲介手数料=マージンは2240円前後です。
それは結構高い金額ですよね。
それでは、企業はなぜ、こんなに高い仲介手数料を払っても派遣社員を採用したいのでしょうか。
今回は、企業が高いマージンを払っても派遣社員を採用する理由を解説していきます。
変化している企業の経営環境
昔の日本では、「終身雇用」という雇用の仕方が採用されており、ほとんどの採用は「正社員になる」ことを前提としていました。
正社員になると、基本的に一つの会社で入社から定年まで働くことが前提ですが、その反面、正社員としての地位は法的に保障されており、企業が簡単に正社員を解雇することができません。
なので、正社員としての雇用は、労働者にとっても、企業にとっても、非常に安定した雇用形態といえるでしょう。
しかし、昔の価値観の解体と女性の社会進出がはるかに進んでいて、さらに企業の経営環境も目まぐるしく変化している現代社会では、採用した人手を全員正社員にするということは労働者にとっても、企業にとってもデメリットとしての一面が見えてきました。
まず労働者にとって、女性の労働者は昔のように結婚や出産きっかけに退職する必要がなくなりましたが、やはり妊娠や出産そして育児には時間がかかってしまいます。
また、ワークライフバランスが叫ばれている現代、「仕事のために生きている」と揶揄されるほどの働き方は魅力を失ってしまって、仕事後のプライベートな時間も大切にすべきという考え方が主流になってきています。
日本の正社員は、法的に地位が保障されていますが、その代わりに会社の残業や休日出勤に応じざるをえないということもあります。
そのため、契約期間が限られてしまうものの、残業ほぼなし、お給料もそこそこ高い派遣という働き方は魅力的に見えてきます。
その一方、企業にとっても、全員を正社員として採用すると、急に経営環境が悪化してしまっても、その状況に応じて人員削減やリストラができなくて、結局高騰した人件費を抱えたままで倒産してしまったという羽目になることもあります。
そのため、企業にとっても、それほど重要でない仕事を派遣社員にやってもらうことは魅力的でしょう。
企業が派遣社員を採用するポジティブな理由
先ほどもお話ししたように、企業にとっては派遣という働き方は非常に魅力的ですが、その魅力には、実はポジティブなところとネガティブなところがあります。
まずはポジティブなところから紹介していきます。
ポジティブな理由① 即戦力を求めている
日本で新卒を採用する時に、何も知らない新卒を採用して、立派なビジネスマンまで育てていくのですが、必然的に時間的、金銭的コストが発生しています。
さらに、その新卒採用から新人研修や新人教育という一連の過程に、人事という部署が必要となって、その人事部の従業員のお給料も支払わなければならないため、さらにコストが膨らみます。
会社の事業が急成長中ですが、そんな新人教育に時間を費やしたくないという理由で、派遣社員を雇入れました。
派遣社員はすでに何らかのスキル、技術を身につけているため、雇入れてから新人教育を受けずにすぐ即戦力になれます。
それは会社にとって非常に心強いものですよね。
ポジティブな理由② 会社の風通しをよくするため
日系企業によく見受けられる不思議な現象ですが、ベンチャー段階の企業では上下関係もそれほど厳しくなくて、職場の風通しもよかったのですが、会社規模の拡大につれて、上下関係が厳しくなっていって、自由に意見が言えなくなるような空気になってしまいます。
やはり正社員になると、自分の出世などを考えて、不本意ながらも上司に媚を売るような行為を取ってしまってもおかしくはありませんよね。
それが長く続くと、職場での風通しが悪くなってしまって、会社全体の成長に対しても非常に悪い影響がでてしまいます。
しかし、派遣社員の場合は、人事権は派遣会社にあって、ちょっと職場の空気を壊してしまったようなことをしてもそれだけで解雇されることもありません。
なので、正社員としては言いづらいことですが、派遣社員という身分では意外といえること多くて、それで会社全体の風通しを改善していく可能性もあるため、派遣社員採用のもう一つのメリットといえます。
企業が派遣社員を採用するネガティブな理由
企業が積極的に派遣社員を採用理由はポジティブなものばかりとは限りません。
むしろ多くの企業が何らかのネガティブな理由で派遣社員を採用しているのは現実です。
それでは、会社が派遣社員を雇入れるネガティブな理由を解説していきます。
ネガティブな理由① 人件費の削減のため
不思議に聞こえるかもしれませんが、企業が高い仲介手数料を払っても実はその金額は正社員の人件費より低いです。
正社員の場合は、その正社員の採用過程にかかるコストはもちろん、さらにお給料以外に、社会保険料や福利厚生の支出もあって、実は結構の金額になります。
派遣社員の場合は、すべての費用は仲介手数料=マージンに含まれているため、それ以外の支出はもちろん一切ありません。
さらにお給料の計算仕事も不要ですので、会社にとっては非常に楽です。
ネガティブな理由② 雇止めが可能
これも非常にネガティブな理由ですね。
会社が急成長中だったら人員を大量採用して、経営環境が厳しくなってしまったらその都度不要な人員を削減していく、というのは欧米でよく見られる光景ですが、日本はそうではありません。
話の繰り返しですが、日本の正社員の地位は法的に保障されているため、会社の思うとおりに人員削減ができません。
労働基準法によれば、会社が解雇回避義務を背負っており、従業員の整理解雇が認められるのは、他に何の打つ手もない場合のみです。
また、いあゆる「問題社員」の懲戒解雇も、会社の財産の横領など、やむをえない事由でない限り、認められません。単純に「本人にやる気がない」などの理由は基本的に通じません。
その一方、派遣社員の場合は、最長でも三年間の有期雇用契約で、その上に更新することもないので、企業としては非常に使いやすいでしょう。
終わりに
企業が派遣社員を採用する理由は様々ですが、当然ポジティブなものとネガティブなものがありますね。
いずれにしても、派遣社員になるという一方を踏み出す前に、企業側の採用理由を知っておいたほうは損したことが絶対ありません。
派遣社員のお給料は新入正社員よりも高い場合はほとんどですが、そこのリスクも十分に見極めておくことが大切でしょう。