広告代理店と聞くと「残業が多くてブラックである」とイメージされがちです。ただ実際のところは「会社による!」としか言いようがなく、のほほんと牧歌的にゆるゆると業務できるような広告代理店も存在します。
新規開拓で新しいクライアントからばんばん仕事を取ってこなければいけないような広告代理店では、日々納期に追われて忙しいかもしれません。
一方、特定クライアントとの付き合いがほとんどで、Webサイトの定期更新などで事業を回していけるような広告代理店では、1日の大半がルーチンワーク。定時帰りが当たり前といったところもあります。
サウナと水風呂くらいに会社によって職場環境が異なるのは、Web業界でなくともあるあるかもしれませんが、派遣社員のメリットはいろいろな職場を経験できること。そしてヤバいと思った職場からは即座に逃げられることです。
「ラクな仕事がしたいか」それとも「スキルアップに繋がる仕事がしたいか」でも、求人選びはまったく変わってきます。
この記事ではWeb広告代理店での派遣社員の仕事内容について「業務がラクか?」「スキルアップ&キャリア形成に繋がるか?」の両面から解説していきます。
大手広告代理店を選ぶか?中堅広告代理店を選ぶか?
広告代理店は全国で5000事業所近くあるそうですが「派遣社員を雇えるほどの企業体力があるか」である程度スクリーニングされるため、派遣社員としてWeb広告代理店で働く際は「大手か中堅か」の選択肢になってくるかと思います。
派遣面談時に絶対に確認しておきたいのが、業務の範囲、とくに「どこまで仕事をさせてもらえるか」の部分です。
大手で分業制が進んでいる会社では「校正者として派遣で入った人は、校正以外の仕事をさせてもらえない。朝から晩まで校正業務のみ」といったところもあるでしょう。
逆に人手が足りていないような会社では「コーダーとして入社したのに、コーディングだけでなくデザインや校正、はたまたクライアントとのやり取りからパワポ資料作成まで任される」といったところもあります。
ルーチンワークで日々決まった仕事を黙々とやれる環境が良いのか、それともいろいろな業務にチャレンジできる環境が良いのか、自分の求める方向性をはっきりとさせた上で派遣先を選ばないと後悔することになります。
新規案件の企画提案など(本来なら正社員が担当するケースの多い業務)にチャレンジしたいという人は、あえて人手が足りていなさそうな中規模広告代理店を狙ってみるのも手です。
ともかく最も大切なのは、面談時に「どこからどこまでが派遣の業務範囲なのか」をはっきりとさせておくことです。
就業条件明示書(雇用契約書)の業務内容欄に記載している業務以外のことを派遣にさせるのは、契約違反となります。
そのため「デザインからコーディング、企画提案まで何でもやってみたい!」という場合には、業務内容を幅広く見積もった上で就業条件明示書に盛り込む必要があります。
このあたりは派遣の営業(コーディネーター)さんも相談に乗ってくれると思いますので、自分が何をやりたいのかを明確にした上で派遣先面談に臨むことをおすすめします。
Web媒体・動画媒体・紙媒体のどれに強い企業か
広告代理店と一口に言っても、
- Web媒体(Webサイト、バナー、リスティング広告等)
- 動画媒体(テレビCM、YouTube、デジタルサイネージ等)
- 紙媒体(雑誌広告、カタログ、ポスター、チラシ)
のどれを専門とする会社かで、業務内容が大きく変わってきます。
この記事ではWeb広告代理店での業務を念頭に解説していきますが、「動画制作がやりたい!」「雑誌作りに関わりたい!」という人はその媒体に強みを持つ広告代理店かどうかをチェックしておきましょう。
ひとつ注意したいのが「Webコーダー」の求人募集であったとしても、派遣先がWeb広告代理店であるとは限らないことです。
デジタルサイネージの画面制作でもコーディング技術が使われますし、企業の電子マニュアル制作でもマークアップ技術が使われます。
また、紙媒体を得意とする広告代理店が、Web事業にも乗り出したけれども(社員にWeb系知識のある人がおらず)派遣社員の募集をかけるケースも見られます。
専門レベルの低い会社に入ってしまうと、せっかく入社したのに学べることが少なくスキルアップに繋がらない――といった不幸な事態を招きかねないので事前リサーチがとにかく重要です。
次に述べるとおり、Webコーダー・フロントエンドエンジニアとしてのスキル&キャリアアップを目指す人には、広告代理店を推奨しません。
知らないと後悔する「Web広告代理店」と「Web制作会社」の仕事内容の違い
Web制作とWeb広告代理、事業としてどちらともやっている会社も多く線引きは曖昧なところもありますが、微妙に違います。
Web制作会社はまさにWebサイトの制作を生業とするため、求人として「Webデザイナー」や「Webコーダー」が募集される場合、それなりに高度なデザインスキルやコーディングスキルが求められます。
AdobeのPhotoshopやIllustratorでのバナー・ロゴ制作や、XDでのWebサイトモックアップ制作、Sassを使ったCSS管理ですとか、jQuery,React,AngularJS,Vue.jsなどのJavaScriptの知識ですとか、会社によってはPHPのLaravelやSymfonyといったフレームワークまで扱う能力が要求されます。
一方、Web広告代理店で募集される「Webデザイナー」や「Webコーダー」は、Photoshopの基本的な使い方が分かっていたらOK、HTMLタグのマークアップができたらOKといったように、大したレベルが要求されないケースが多々あります。
何故なら、Web広告代理店では、高度なWeb制作の依頼がクライアントから入った場合は、外注企業に出して制作してしまい自社では制作しない(検品のみ)場合があるからです。
求人の業務内容に「デザイン・コーディング」とあったとしても、Web制作会社かWeb広告代理店かで(ケースバイケースではあるものの)実際の業務内容は天と地ほどの差がある可能性があります。
Webコーダーとしてせっかく広告代理店に入社したのに、業務内容はWordPressの記事投稿と更新作業のルーチンワークだった、というのではスキルアップは難しいです。
ミスマッチを無くすために派遣先面談時に聞いておくと良いのは「業務上使用するソフトウェア」と「パソコンのスペック」です。パソコンのスペックまでは聞きづらいかもしれませんが、使うソフトウェアは是非とも聞いておきたいです。
Adobe系ソフトウェアだと、PhotoshopやIllustratorは定番ですが、InDesignが入っていれば紙媒体のデザイン業務も入ってきますし、XDでWebデザインを作っているということであればそこそこ時流に乗っている会社だと言うことができそうです。
コーディング関連ですと、GitHubやSourceTreeなどでソースコードをバージョン管理しているかどうかも会社の実務レベルを図る質問となり得ます。
「社用PCのメモリが4GBしかない」「デュアルディスプレイがない」といったような会社であれば、まずデザインやコーディングは主業務になり得ませんから、避けた方が良いでしょう。
ただ最初にも述べたとおり「Web制作のスキルとキャリアを積む」のが目的であれば、Web広告代理店は(たとえデザイナーやコーダーの求人が出ていたとしても)あまりおすすめできないです。
Web制作を専門とする会社や、クラウドアプリケーション等を自社開発運営する会社に入った方が実力はつくでしょう。
なぜならば、Web広告代理店にとってデザインやコーディングはあくまで「サブ」の業務であり、専門はマーケティングであるからです。
正社員の領域だが、派遣でもやらせてもらえる可能性のある仕事
以下でご紹介するのは、Web 広告代理店の仕事ではあるものの、おそらく正社員が担当する可能性の高い業務です。
アプローチ次第では派遣社員にも任せてもらえるものの、これらの業務経験を積みたい場合は派遣社員ではなく初めから正社員としての入社を目指した方が良いだろうと考えます。
- クライアントへの提案、企画書制作
- Webディレクション
- 外注コントロール
- 予算管理
企画書を作成しクライアントに提案を行う業務は、会社の業績を左右する責任重大な仕事です。一般的には、クライアントに対しプレゼン提案したり交渉したりといった業務は、派遣社員には任されないです。
もちろん、企画書の制作補助(パワーポイントの資料作り)やコンペティションの準備には関われることもあるので、間接的に学べることは多々あると思います。
また、Webディレクションや外注コントロールといった部分も、一般的には正社員が対応するケースの多い業務です。
スケジューリングを間違えれば納期に間に合わず、クライアントからの信用を失ってしまいますので、こちらも責任重大な業務です。
ふつうの企業であれば、正社員のプロジェクトマネージャーが最終責任を取れるように担当業務を割り振ります。
したがって仕事の受発注やクライアントとの信用に直結するような責任の重い業務が派遣社員に任される可能性は低いです。
派遣社員が中心となって行う可能性の高い仕事
次は派遣社員がやる可能性の高い業務について解説します。
契約上、派遣社員の業務内容は限定されています。したがって、派遣社員としてWeb広告代理店に務める場合は、下記のいずれかのプロフェッショナルとして派遣される可能性がおそらく高いでしょう。
- デザイン
- コーディング
- ライティング
- 動画制作
- デバッグ、テスト、校正
デザインとコーディングはすでに述べたとおり、Web広告代理店では簡単な修正や更新レベルで、高度な技術には触れられない可能性があります。
一方でコピーライティングやセールスライティングは広告代理店の得意とする領域です。
Webライターでの独立を考えている人などは、一度広告代理店で腕を磨くのも大いにありです。
とくにSEOを意識したライティングの仕方を実務で学べるのは、Web広告代理店の強みです。化粧品や健康食品、美容家電等を扱っている会社であれば、薬機法(旧薬事法)ライティングの知識も身につきます。
ライティング以外では、動画広告・動画プロモーションも最近はトレンドです。
現在は人材需要に対して供給が追いついていない状況であり、もしあなたがAdobe Premiere ProやAfter Effectsを使いこなせるのであれば、動画制作事業に乗り出そうとしている広告代理店からは大変重宝されると思います。
デバッグ、テスト、校正も、繁忙期の広告代理店ではよく派遣求人の募集がかかります。
デバッグはゲーム、テストはアプリケーション、校正は紙やWebの文章、と媒体は異なりますがいずれもリリースする製品の品質を保証するのに必要不可欠な業務です。
Web広告代理店でWebサイトリリースを扱う会社の場合は「Webサイトをテスト・校正する人」が募集されます。
サイトのデザイン上の不具合を見つけたり、誤字脱字、言葉の用法違い等を見つけたりするのが校正者の仕事です。
業務内容自体は難しくないのですが、細かい部分に気がつく能力や間違いを見落とさない集中力が求められるので、意外と適正が分かれます。製品カタログの校正作業などでは、品番の数字やアルファベットの1字1字の間違いにも神経を尖らせなければいけないため、精神力を使います。
校正やテストはキャリアアップには繋がりにくい難点がある一方で、経験を活かしていろいろな業界の会社に入りやすいメリットもあります。
広告代理店での校正業務経験がある場合、アプリ自社開発企業のテスター案件や、ゲーム会社のデバッガー案件にも(未経験者よりかは)入りやすいかと思います。
派遣社員でも経験を積める、広告代理店ならではの仕事
ここまで述べた業務内容については、広告代理店でなくても経験できるものがほとんどです。
以下ではWeb広告代理店ならではの業務内容についてご紹介いたします。
- Webアナリティクス
- SEO分析
- 広告運用
WebアナリティクスやSEO分析は、Webサイトのアクセスデータを分析し、クライアントに説明できるよう資料としてまとめる業務です。
使用ソフトウェアとしてはブロガーも使っているおなじみのGoogleアナリティクスやSearch Consoleの他、Ahrefsなどの有料被リンク解析ツール、ヒートマップツールや高度なものでは機械学習を用いたユーザー行動分析など、多岐にわたります。
が、基本はGoogleアナリティクスです。
広告代理店のWebアナリスト求人を狙うのであればGoogleアナリティクスを学習し、Google アナリティクス個人認定資格(GAIQ)などの資格を取ることをおすすめします。GAIQは自宅で無料受験でき、資格欄に書いたときの見栄えも悪くないので取っておいて損はないです。
Webアナリストと聞くとなんとなくクリエイティブで格好良いイメージがありますが、実際のところ業務の大半はGoogleアナリティクスからデータを拾ってExcelに落とし込んでクライアント用にパワーポイント資料を作って――と地道でコツコツとした作業が中心となります。
SEO戦略を練る部分まで任せてもらえれば楽しいですが、「データ収集と資料作成は派遣社員」「SEO戦略を立てるのは正社員」と役割が分かれているケースもあります。(実際こちらのケースの方が多いと思います)
Googleアナリティクスのデータをまとめるだけでは単なる事務作業をやるのと何ら変わらずスキルアップに繋がりにくいので、派遣としてWebアナリティクス業務をやる場合は「クライアントのサイトを改善するために、自分のいま分析している数字をどのように使うべきか」を自問自答しつつ、目的意識を持って仕事に取り組みたいです。
Web分析以外では、リスティング広告の出稿(キーワードの選定や広告文章の作成)などを担当するケースもあります。
Web分析や広告運用の業務は、すでにブログやアフィリエイトをされている方とは非常に相性が良いです。Webアナリティクスの業務が未経験であったとしても、派遣のキャリアシートで自己運営サイトの実績などを盛り込めれば採用側としてはプラスに働く可能性が高いです。
目指すキャリアから逆算して案件を選ぶことの重要性
以上、Web広告代理店での業務内容についてご紹介いたしました。
派遣で働くというのは数多くある選択肢のひとつであり、それ自体が(正社員やフリーランスなど他の働き方と比べて)良いとも悪いとも言えないです。
派遣社員から正社員になることも、フリーランスとして独立することも、どちらも道としては可能です。
自分の目指すキャリアから逆算して派遣求人を選ぶことが大切です。
付け加えて、派遣社員として働くのであれば必ず知っておきたい法律があります。
それは労働者派遣法第33条です。
第33条(派遣労働者に係る雇用制限の禁止)
第三十三条 派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者又は派遣労働者として雇用しようとする労働者との間で、正当な理由がなく、その者に係る派遣先である者(派遣先であつた者を含む。次項において同じ。)又は派遣先となることとなる者に当該派遣元事業主との雇用関係の終了後雇用されることを禁ずる旨の契約を締結してはならない。
2 派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者に係る派遣先である者又は派遣先となろうとする者との間で、正当な理由がなく、その者が当該派遣労働者を当該派遣元事業主との雇用関係の終了後雇用することを禁ずる旨の契約を締結してはならない。
もし派遣先の会社が自分にとてもマッチした良い職場であった場合、双方の合意が得られればの話ですが、正社員になる道は常に開けています。
派遣契約の期間満了後に、企業が直接雇用(正社員登用)するのを派遣会社は禁ずることができません。多くは語りませんが「正社員を目指すために派遣というキャリアを活用する」というのは戦略としては大いにありです。
また、派遣で積んだキャリアを活かして、他企業に正社員転職する道もあります。
Web業界での転職では「ポートフォリオ」が命です。
デザイナーやコーダーの転職であれば実制作物(Webサイトなど)が必須ですし、Webアナリストの転職でも「どのような分析・施策を行ってどのように成果を出したか(KPI・KGIを達成したか)」という部分を話せるようになる必要があります。
フリーランスとして独立する道もあります。
Web広告代理店勤務で身につくスキルや知識は、Web系フリーランスに必要なスキルセットと相性が良く、役に立つものです。
デザインやコーディング、広告運用やSEO分析、ライティングやマーケティング、クライアントや外注先とのやり取りや業界知識……etc これらのWeb系フリーランスとしての独立開業に必要な知識と経験は、Web広告代理店では非常に効率よく学ぶことができます。
もちろん、派遣社員を続けながら、その知識をブログやアフィリエイト、YouTubeなどの副業に活かすのも良いでしょう。
派遣は多くの場合3ヶ月毎の契約更新で、換言すれば3ヶ月毎に自分のキャリアを見直す機会が訪れます。
正社員ほどの安定性は無い一方で、軌道修正しやすいのが派遣の良いところではあるので、是非とも戦略的なキャリアビジョンを持って案件を選びたいです。
皆様の仕事探しにこの記事が少しでもお役に立てましたら幸いです。