二重派遣が法律に違反していることは知っているけれど、自分には関係がないと思っている人は要注意です。
現役の派遣社員はもちろんですが、この先において、派遣社員として働く可能性がある人にも起こりうる「きわめて身近な問題」だからです。
また仕事で派遣事業に関わっている人も、知らない間に巻き込まれており、自分が当事者になっている可能性があります。
本記事では二重派遣についての罰則・デメリットを紹介し、バレた時のことも分かりやすく解説します。
トラブルに見舞われたくない方は、最後までしっかりとチェックしましょう!
二重派遣とは?
二重派遣は、れっきとした違法行為であり、犯罪です。
その罰則などを語る前に、まずは二重派遣について、正しく理解をしましょう
二重派遣とは「派遣元(派遣会社)から派遣された企業で働くのではなく、本来働くべき派遣先から別の企業に派遣され、そこで働かされている状態」を指します。
少々まわりくどい言い方なので、例をあげながら、分かりやすく説明しましょう。
あなたが所属する派遣会社から、派遣先A社を紹介され、そこで働くことになったとします。
しかしA社に行ったところ「うちではなくてB社で働いてね」と言われたので、B社に行って働いているという状態が、二重派遣です。
さらにひどい状況だと、A社とB社の中間に、別の会社が何社も入っているケースもあります。
二重派遣になるケース2つ
二重派遣になるケースは、主に2つあります。
1つ目は「派遣社員をさらに派遣する」パターンで、2つ目は「偽装請負」を行うパターンです。
これについて、順番にご紹介します。
ケース①派遣社員をさらに派遣する場合
先ほど「二重派遣とは?」の項目で紹介したケースも、これに該当します。
派遣社員を「本来働くべき派遣先」ではなく、さらに別の場所に派遣させて、そこで働かせている状態を指します。
この事実を派遣元である派遣会社が、知っていても知らなくても、二重派遣だということには変わりありません。
ケース②偽装請負の場合
派遣社員が本来働くべき派遣先C社が、取引先のD社から、請け負っている業務があったとします。
派遣社員に対して、この業務をC社で作業させれば問題はありませんが、D社に行かせてD社の指示のもとで業務を行わせれば、偽装請負に該当します。
なかには「D社から請け負った仕事なのだから、D社に行ってD社の人に聞きながら作業をしてもらった方が、効率的だろう」と、軽い気持ちで行うケースもあるでしょうが、立派な犯罪です。
二重派遣に似ても該当しないケース
二重派遣に似ていますが、該当しないケースもあるので、ご紹介します。
さきほど紹介をした「偽装請負」の例において、本来の派遣先であるC社で働かずにD社で働いていたとしても、そこで業務の指示を行う人がC社の人間であれば、二重派遣に該当しなくなります。
比較をしてまとめると、下記の通りです。
【×】偽装請負であり、二重派遣である
派遣社員が本来働くべき派遣先C社が「D社から請け負っている業務」を、C社ではなくD社で作業させ、なおかつD社の担当者の指示のもとで働かせる
【◎】偽装請負ではないので、二重派遣ではない
派遣社員が本来働くべき派遣先C社が「D社から請け負っている業務」を、C社ではなくD社で作業させているが、C社の担当者の指示のもとで働かせている。
以上のことから、派遣社員を受け入れる企業の担当者は「請け負った業務は本来の派遣先で作業をさせる」か「請負先で作業をさせる場合には、本来の派遣先である自社の担当者が指示を出す」ことを意識しましょう。
二重派遣で派遣社員が被るデメリット3つ
二重派遣は法律で禁止されていますが、その理由は「労働者である派遣社員を守るため」です。
二重派遣でおいしい思いをするのは、企業側のみであり、派遣社員が被るデメリットは大きく損ばかりだと言えます。
そうならないために、二重派遣をきちんと法律で禁止し、違反者を厳しく罰する仕組みが設けられているのです。
以下に二重派遣で派遣社員が被るデメリットを、3つご紹介します。
①問題発生時の責任の所在がわかりにくくなる
二重派遣で派遣社員が被るデメリットの1つ目は、問題発生時の責任の所在がわかりにくくなることです。
例えば通勤途中で事故に遭ってしまい、通院をすることになった場合には、勤務先に労災を申請すれば、通院費が後で戻ってきます。
二重派遣の場合には「派遣会社に申請をするべきか?」や「現在の派遣先と本当の派遣先の、どちらに申請をするべきか?」などと迷いが生じやすく、責任の所在がわかりにくいと言えます。
仮に所属の派遣会社が二重派遣を把握していた場合には、労災を申請しても、二重派遣の発覚をおそれて、申請自体を拒否してくる可能性が十分にあります。
あきらめて派遣先に申請をしたら、派遣先も二重派遣の発覚を恐れて「その件については一切分からないので、派遣会社から指示を受けてください」などと、突っぱねられる可能性も高いでしょう。
このように会社間で、責任の押し付け合いが行われることもあり、誰が責任をとるかが分かりにくくなります。
②不利な勤務形態になる
二重派遣で派遣社員が被るデメリットの2つ目は、派遣社員にとって不利な勤務形態になることです。
派遣社員は労働時間や業務内容などの「契約」に基づき、仕事を行います。
例えば実際の派遣先E社とは、定時は【9時~17時勤務】で、休憩は【1時間】という契約だったとしましょう。
しかし二重派遣先のG社で働いていることにより、勝手に定時は【10時~18時勤務】で、休憩時間は【45分間】という形で、働かされることがあります。
派遣社員にとっては不利益しかありませんが、雇用主と労働者という関係上から、泣き寝入りをする人も多いです。
所属の派遣会社に相談しても「そういうことは、よくあることだから」と言われ、そのまま鵜呑みにしてしまうケースも少なくないです。
③賃金が下がってしまう
二重派遣で派遣社員が被るデメリットの3つ目は、賃金が下がってしまうことです。
まず本来であれば、派遣元から派遣会社に契約料を支払い、残りの利益から派遣社員に給料を支払うというのが通常の流れです。
一方で二重派遣を行うと、二重派遣先から派遣会社の間に別の会社が入るので、中間マージンが発生するため、派遣会社に入る利益が少なくなります。
そのため派遣社員に対しては、本来であれば払われる給与額よりも、少ない額で支払われる可能性が多いにあります。
二重派遣がバレたらどうなる?
二重派遣は法律違反なので、当然ですがバレたら罰せられます。
ひとことで法律違反と言いましたが、詳しくいうと「職業安定法」または「労働基準法」に違反することをさします。
ここでは、実際に二重派遣がバレたらどうなるかを、この2つの法律に分けて解説します。
労働基準法に反したときの罰則
労働基準法の側面で見ると、二重派遣を行って「手数料」を取っていた場合に、罰則の対象者に該当します。
例えば派遣社員が本来働くはずの派遣先H社が、自社で働かせずに、別の会社であるJ社に派遣して、J社の指示のもとで働かせていたとします。
この時に、H社がJ社から手数料を得ていた場合には、労働基準法に反するということで罰せられます。
この事実を、派遣社員が所属する派遣会社も知っていれば、派遣会社も同様に罰則を受けます。
●1年以下の懲役または50万円以下の罰金を支払います。
●得に悪質な場合には、上記の罰則の他に、下記などの処分がくだされます。
・業務停止命令
・業務自体の廃止命令
・事業所名を世間に公表
職業安定法に反したときの罰則
職業安定法の側面から見ると、派遣社員を本来の派遣先ではない場所に送り、そこで働かせていた場合に罰則の対象者に該当します。
例えば二重派遣の詳細が「派遣会社→本来の派遣先K社→二重派遣先L社→二重派遣先M社」という流れになっていたとします。
もし関与する全ての会社が事実を知っていれば、全員(派遣会社/K社/L社/M社)が罰則を受けます。
(※派遣社員自体は、二重派遣を行っていたことを知っていても、罰せられません。)
ただし「厚生労働大臣の許可を得て事業を行っている」ケースや、あくまで「無料で行うことについての営業許可をもらっている」場合には、法律違反ではないので罰則は受けません。
●1年以下の懲役または100万円以下の罰金を支払います。
●労働基準法と同様に、得に悪質だと判断された場合には、上記の罰則の他に、下記のような処分がくだされます。
・業務停止命令
・業務自体の廃止命令
・事業所名を世間に公表
二重派遣はどんな業界で起こりやすい?
二重派遣はどのような業界でも、起こる可能性はありますが、特に起こりやすい業界が存在します。
それは「IT業界」と「製造・軽作業業界」です。
①IT業界
IT業界では、自社のエンジニアやプログラマなどの技術者を、他社に常駐させて勤務させることが、もはや当たり前の光景となっています。
また派遣契約の他にも、業務委託や準委任契約などのさまざまな契約方法をとっており、複雑に絡み合っています。
さらにIT業界では、技術者と常駐の勤務先の間に、何社もの会社が入っている案件も珍しくありません。
IT業界は業界同士のつながりが強く、昔からの付き合いや上下関係などの影響で、何社か会社を間に入れないと、発注がもらえないというケースがあるからです。
こうなると本来の契約内容の把握が難しいこともあり、この中に二重派遣がまぎれていても、分かりにくいと言えます。
②製造・軽作業業界
製造・軽作業業界は、一度に多くの作業員を必要とするので、人手不足になりやすいと言えます。
そうは言っても、必要な人員には波があるので、今回のイベントでは100人の作業員が必要でしたが、次回のイベントでは80人で大丈夫だということもあります。
この場合には、20人の派遣社員が余ってしまいます。
このような時に「人手不足の会社に、自社の作業員を送ろう」と考える会社があることから、二重派遣が発生しやすいと言えます。
例えば「今はうちでは人手が足りているから、来週は派遣会社N社で働いてきてね」と言われたら、二重派遣に該当します。
二重派遣を避けるには?
二重派遣が発覚すると、二重派遣を知っていた「関係する全ての会社」に対して、厳しい罰則が待っています。
また事実を把握していなかったとしても、知らずのうちに二重派遣に関与することは、避けたいところです。
二重派遣を避けるためには、日ごろから「3つのポイント」を意識し、実施することが重要です。
以下に、詳細を解説します。
派遣会社側でマメに確認する
二重派遣を避けるための1つ目のポイントは、派遣会社側でマメに確認することです。
最初に派遣契約の内容自体を確認することはもちろんですが、当初は二重派遣ではなかったとしても、いつの間にか知らないところで二重派遣になっている場合があります。
このことから派遣会社側で、マメに勤務実態を確認することが大切です。
契約時の内容との「相違の有無」について、派遣元自体に定期的に確認をすることや、場合によっては派遣社員にヒアリングを実施しても良いでしょう。
契約内容をよく確認する
二重派遣を避けるための2つ目のポイントは、契約内容をよく確認することです。
特に「指揮命令者」が誰であるかを、しっかりと確認しましょう。
指揮命令者が派遣元の担当者ではなく、別会社の担当者名で記載があれば、二重派遣に該当するので注意が必要です。
最初の契約時に内容を見逃し、後で二重派遣を指摘された場合でも「二重派遣について知らなかった」という言い分は通用しないので、必ず契約内容のチェックを行いましょう。
雇用関係をよく確認する
二重派遣を避けるための3つ目のポイントは、雇用関係をよく確認することです。
例えば派遣会社から派遣社員を迎え入れ、自社で働かせるとしましょう。
その場合には、その派遣社員の雇用元が、本当に紹介してくれた派遣会社なのかをチェックすることが大切です。
その派遣社員が紹介してくれた派遣会社ではなく、別の派遣会社から雇用されている場合には、そのまま迎え入れてしまうと、二重派遣となってしまいます。
まとめ~二重派遣には要注意!~
今回の記事では、二重派遣について紹介をしましたが、罰則やデメリットがあることが分かりました。
派遣事業に関わる人は、最初から二重派遣をしないことはもちろんですが、いつの間にか二重派遣となってしまう可能性もあるので、常に注意が必要です。
違反をしていると、いずれバレるのがこの世の常です。
また派遣社員に関する罰則はありませんが、不利な勤務形態や賃金の低下などのリスクがありますので、二重派遣の仕事には関わってはいけません。
このことから、日ごろから「二重派遣をしない・関わらない」という意識を持ち、モラルを持った行動の心がけが大切だと言えるでしょう。